AkibaDiver

[企画メンバー]

慶應義塾大学社会学研究科 博士課程 中村香住

慶應義塾大学社会学研究科 修士課程 土屋大輔

慶應義塾大学総合政策学部 3年 鈴木杏菜

メンター 菊地映輝(慶應義塾大学SFC研究所 上席所員)

 

 

[企画概要]

 「秋葉原」という街は、長い歴史の中で、さまざまにその形を変え続けてきた。最初は闇市から始まり、ラジオパーツの街が次第に家電や電気の街と変化した。Windows95が登場してからは「パソコンオタク」「ゲーマー」の街になり、次第に「萌え」やアニメなど二次元の美少女たちに関するものが集まる「趣都」(森川嘉一郎『趣都の誕生―萌える都市アキハバラ』より)となった。今ではアイドルなど三次元の女性にまつわるコンテンツやイベントも街中で多くみられるようになっている。しかし、その陰で、商業都市としての秋葉原の変遷と関係なく、秋葉原のもう一つの呼称である「外神田」でずっと生活を営み続けている近隣住民もいる。

 今、「秋葉原」はどのような姿でそこに佇んでいるのだろう。統計データを見れば、外国人観光客の「一番期待していた場所」では多くの地域・国籍で3位以内に入っており、全体では2位に輝いているにもかかわらず、「一番満足した場所」ではほとんどの地域・国籍で3位以内に入っていない(東京都「平成27年度 国別外国人旅行者行動特性調査」より)。日本人も、アニメやアイドルのファンでなければ、今の秋葉原に足を踏み入れる機会はあまりない。そのため、「秋葉原」のことを2005年頃からメディアで喧伝されてきた「萌えの街」「ヲタクの街」というイメージのみで判断する人も多い。さらに、近年秋葉原がいわゆるJKビジネスの拠点の一つになったことで、「秋葉原が児童の性的搾取の現場になっているのではないか」などの疑いの目も向けられている。しかし、この実態についての調査は十分に行われているとは言えない。また、秋葉原の内部に目を向けると、近隣住民や商業者の間でのコミュニケーションが必ずしも十分とは言えない現状がある。そのために、連携を図ることが難しく、新しいことに取り組みづらい側面もあるのではないか。

 今の秋葉原がどのようなものとして目に映るかは、その人の立場や置かれた環境によって大きく異なっている。そこで私たちは、秋葉原という街がもつ魅力と問題点をさまざまな調査をもって明らかにしていくことを目指す。例えば、秋葉原で争点として度々取り上げられるイシュー(児童の性的搾取の実態や訪日外国人が秋葉原に期待している要素など)に関して、科学的な根拠に基づいた量的・質的調査を行ってデータを作成し、それを元にさらなる議論を誘発することは急務であろう。ただし、科学言語のみによる研究活動では把握や理解しえない秋葉原の姿もある。それを探究するために、多様なアートワークの実践を用いた調査研究活動であるABR(Art Based Research)を取り入れることも検討している。

 前述の調査は、学生だけで行われるのではなく、秋葉原に実際に携わる商業者、事業者、NPO、地域住民、消費者と協働する形で取り組まれる。そのプロセスを通じ、それぞれのアクターにとって秋葉原がよりよい街であると感じられるようになることを同時に目指す。また、学生たちにとっては、「街の問題を解決する」という大きな目標の中で、自ら街の中に入り込んで調査を行う機会となる。それにより、実際に街で生活や消費活動やビジネスを行う人たちに出会い、その経験と視座から学ぶことになる。その中で見えてきた秋葉原の姿を「発信」する機会を持つことは、これまで秋葉原に縁遠くマスメディアを通じて生み出された秋葉原のイメージを「受信」するだけであった学生たちにとって、意義深いものになるだろう。

 これらの研究・実践を通して、「秋葉原」という街そのものの現状をまるごと呈示できるような成果物を作り上げ、秋葉原に関わるすべての人、そしてまだ秋葉原を知らない人にも見てもらえるようにしたい。そのことによって、秋葉原でこれまで連携していなかった人々が繋がり、議論できるための素地が作られ、新しい取り組みや新しい文化が生まれること。ひいては、「秋葉原」が今後も持続的に魅力ある街でいられるための一助となることを本プロジェクトは目指す。

 

 

[具体的な進行と今後の展開予定(構想段階)]

 2017年2月12日にすでに行った「アキハバラ大会議」(http://twipla.jp/events/238271)で参加者のディスカッションにより導き出されたさまざまな問題提起を踏まえ、それらに応答できるような調査研究・実践を、秋葉原の街に関わる多様なアクターとともに行う。

 2017年度は、アキハバラ大会議の参加者から挙げられた意見を参考に、秋葉原の人々に実態がよく把握されていないものを洗い出して、それらの実態を明らかにするための調査を行う予定である。また、ABRの手法を用いて、秋葉原の街中を歩きつつビジュアルエスノグラフィーを行うことも考えている。そのうえで、秋葉原の街の人々とともに行うワークショップや勉強会も年数回開催し、より広範な人々に研究・実践成果がを共有すると同時にその場でまた新たな意見や問題提起が生まれ、それに対してさらなる研究・実践を街の人とともに行うといった循環プロセスを繰り返す。このことにより、秋葉原の街に資するプロジェクトとなることを目指す。

 2018年度には上記の研究・実践を継続したうえで、さらに調査範囲や問題意識を拡大・深化させ、サントリー文化財団「地域文化活動の実践者と研究者によるグループ研究助成」を受けることを目指す。